那須楮

なすこうぞ

 茨城県西北部で栽培され白皮(白楮)に加工された和紙の原料となる楮のこと。地元では単に「コオズ」と呼んでいますが、江戸時代、当地産の楮も和紙も鬼怒川舟運を使って江戸に移送するため、下野国那須地域(栃木県那須烏山市周辺)に集積されて運ばれたことから、「那須」地名が冠されて流通することとなってしまったようです。

 茨城県に隣接する那須郡域も和紙の産地であり、楮の栽培も行なわれていましたが、生産量の大部分は茨城県域で産出しており、現在は、常陸大宮市と大子町でのみ栽培・加工されています。

 和紙の原料には、楮の他に、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)などの木の皮の繊維(靭皮繊維)を用いますが、古代より最も多く用いられたのが楮です。楮は雁皮や三椏にくらべて繊維が長く太いのですが、暖かい地方で栽培された楮は生育がよいために繊維が太くなってしまい、きめの荒い紙になってしまいます。その点、大子町頃藤(ころふじ)を中心とした常陸大宮市北東地域(盛金・家和楽・諸沢等)と、大子町南東地域(西金・大沢等)は山間部に位置し、楮が最も生長する夏季の昼夜の気温差が大きいために、生育が適度に抑えられて、絹に例えられる繊維を得ることができるといわれています。

 当地が西の内紙や程村紙に代表される高品質紙の生産地となった理由も、原料の質の高さによります。現在も、国指定本美濃紙(ほんみのがみ)の原料、また、人間国宝 岩野市兵衛氏が漉く越前奉書の原料には那須楮が用いられています。しかし、外国産の安価な楮が大量に輸入されるようになり、那須楮を含む国産楮の栽培は減少の一途をたどっており、栽培農家の高齢化も進んで、那須楮の生産は厳しい状況となっています。

 那須楮栽培に関する映像記録「那須楮と西ノ内紙」は、(財)地域創造 地域資産ポータルからご覧いただくことができます。